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大阪高等裁判所 昭和48年(ラ)32号 決定

抗告人(原審相手方) 柴田一治

右代理人弁護士 北山六郎

同 前田貢

同 山本弘之

同 辻昌子

相手方(原審申立人) 畑儀一

主文

原決定を取消す。

相手方の申請を棄却する。

抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨および理由

別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

原決定は、債権者・抗告人、債務者・小山正間の執行官保管の占有移転禁止仮処分決定の執行にあたり、執行官が現場で目的である土地の範囲を特定できないにもかかわらず、相手方所有の土地を仮処分決定の目的である土地として公示札板を設置したのは違法であるという理由で、本件執行方法の異議申立を認容したものであることが記録上、認められる。

そして、本件記録によると、本件仮処分決定は、その目的である土地について、神戸市兵庫区山田町下谷上字今草一一番の九山林五一三坪(当時登記簿上一畝一三歩)、原決定別紙目録(三)図面ABCDEFGHの各点を結ぶ線で囲まれた部分のうち西端の地域ABFGHIの各点を結ぶ点線で囲まれた部分約三〇〇坪と表示し、同図面にはAB点を結ぶ線に石垣、ABFGHIA点を結ぶ線に有刺鉄線の表示がなされ、右有刺鉄線で囲まれた部分を目的土地の範囲として表示していること、神戸地方裁判所執行官熊谷弥三次は、右仮処分決定にもとづいて、昭和四〇年八月五日石垣と有刺鉄線とによって執行の目的たる土地の範囲を現場で確定し、原決定別紙目録(二)図面中B点附近に公示札板を設置して執行したこと、同執行官は、先に設置した公示札板が失われていたので、同年一〇月七日ほぼ同一場所に同様に設置したところ、その後、右公示札板が再び失われたため、同年一二月一六日に至り石垣はそのままの状態であったが、当初張りめぐらされていた有刺鉄線が同目録(二)図面中456点を結ぶ地点に残されていたほかはすでに失われていたが、同図面中先に設置してあったB点のほかA点にも公示札板を設置したことが認められる。

ところで、仮処分決定の執行後におけるいわゆる点検執行についても民事訴訟法五四四条にいうところの執行にあたると解するのが相当であるから、抗告人の主張するように本件が点検執行によるものだからといって執行方法の異議の対象となり得ないものということはできない。

又、執行官が土地に対する占有を解き執行官保管を命じた仮処分決定を執行するにあたっては、当該決定の命じた目的たる土地の範囲に限られるべきであることはいうまでもないから、この目的たる土地の範囲をこえることが一見して明確であるのにこれを誤認して右仮処分決定を執行した場合には、当該土地所有者等は執行方法に関する異議申立をすることができると解すべきである。これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件仮処分決定は地番と石垣と有刺鉄線とをもって目的たる土地の範囲を特定しているものといえるから、執行官としては執行目的の土地の範囲を確定するにあたっては、右決定の表示に従えば足り、相手方所有の隣接地との真の境界線を確定しなければならないものではない。そして、昭和四〇年八月二五日の仮処分執行当時においては、石垣と有刺鉄線とをもって現場で目的である土地の範囲を確定しうる状況にあったものであり、しかも、同年一二月一六日当時においても先に施設されていた有刺鉄線の大部分が失われていたものの原決定別添目録(二)図面中456点を結ぶ地点にはなお有刺鉄線が残されており、これと石垣とによれば、公示札板を設置したA点とB点とが本件仮処分決定の表示する土地の範囲をこえることが一見して明確であるとまで認めることは困難である。したがって、執行官がA点、B点を仮処分決定の目的たる土地の範囲内にあるものと認めて公示札板を設置したからといって執行手続上の瑕疵があるということはできない。そうだとすれば、本件執行方法の異議の申立を認容した原決定は不当であるといわなければならない。

よって、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、相手方の申請を棄却し、抗告費用を相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 増田幸次郎 裁判官 三井喜彦 福永政彦)

〈以下省略〉

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